感覚的な“にぎわい”を、まちづくりの確かなエビデンスへ。狛江市・早稲田大学と挑む、人流データ活用による「ウォーカブルなまちづくり」の定量検証

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執筆者 Location AI株式会社 マーケティングチーム
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まちづくりの効果は、現場の手応えだけでは伝えきれないことがあります。

人が増えた気がする」「にぎわっているように見える」という感覚を、関係者と共有できる確かな根拠に変えること。それが、次の施策をより前向きに検討し、持続可能なまちを育てる鍵となります。

本記事では、Location AI Platform®(LAP)を活用し、感覚的な「にぎわい」を定量的なデータへと昇華させた狛江市(東京都)の挑戦をご紹介します。プロジェクトに携わった産官学の皆様たちが、人流データ活用を通じて何を見出し、まちの未来をどう描き出そうとしているのか。インタビューを通じて詳しく伺いました。

この記事のポイント
  • 継続的かつ客観的な計測: 
    カメラ設置の制約を克服した、データドリブンなウォーカブルまちづくり検証
  • 施策の効果を可視化:
    2024・2025年度比較から読み解く、曜日・属性・時間帯別の滞在傾向を検証
  • 多角的な効果検証の視点:
    「イベントの効果」と「日常への影響(トレードオフ)」を可視化するデータ活用のヒント
INDEX

道路を「通るだけの場所」から、人が集い、滞在し、まちの魅力を感じられる場所へ

 2024年春、東京都狛江市は「ほこみち(歩行者利便増進道路)」制度を狛江駅周辺の市道に導入しました。
特定の道路を“歩行者の利便増進を図る空間”として指定し、ベンチやキッチンカーなどの設置を柔軟に認めることで、道路空間を「通過点」から「居場所」へと変える試みです。

狛江市における官民連携のプラットフォーム「一般社団法人 狛江まちみらいラボ」では、オープンステージやベンチの設置、ワークショップなどを通じて、市民が思い思いに過ごせる空間づくりを加速させてきました。

狛江駅周辺に設置されたベンチやステージ

駅前広場に設置されたオープンステージ
駅周辺に設置されたベンチやテーブル

一方で、課題となっていたのが「取り組みの効果」を客観的に示すことでした。

  • 「ベンチを設置したことで、人はどれくらい滞在するようになったのか」
  • 「イベント開催は、日常の駅前利用にどのような変化をもたらしているのか」
  • 「駅前のにぎわいは、一時的なものなのか、継続的な変化につながっているのか」

こうした問いに向き合うためには、
感覚的な“にぎわい”だけでなく、人の動きを定量的に捉えるための根拠が必要になります。

こうした背景から、そこで本プロジェクトでは、Location AI Platform®(LAP)を活用し、狛江駅周辺の人の流れや滞在傾向をデータで捉える取り組みが始まりました。

狛江まちみらいラボが実務面を担い、早稲田大学が学術的な知見を加えることで、狛江駅周辺における人の滞在や移動の変化を定量的に検証する取り組みが始まりました。

まずは、なぜ人流データの活用に至ったのか。そして、どのように分析を進めていったのか。
プロジェクトに携わった皆様にお話を聞いていきます。

設置場所の制約を越え、来訪者の「来歴」まで可視化したい

今回のプロジェクトにおいて、人流データの導入に至った経緯を教えてください

田坂様:

 一番のきっかけは、国土交通省へ提出する「ほこみち」プロジェクトの成果報告書において、客観的な効果測定の結果を示す必要があったことです。これまで活用していた光学カメラの設置場所が、駅の高架下整備に伴い物理的に制約を受けてしまったことでカメラという「点」の計測には限界があると感じていた折に、LAPを知りました。

LAPは設置場所を選ばず、エリア全体を柔軟に分析できる点が今回の課題に最適でした。また、単に成果報告のための数値を出すだけでなく、「どこから来て、どこへ移動しているのか」という人の“来歴”を深く掘り下げたかったことも大きな動機です。イベントで人を呼ぶ際、その人たちがどこから訪れ、どう回遊しているのかを知ることで、まちづくりの解像度が一段上がると考え、早稲田大学の佐野先生に共同研究を相談しました。

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田坂 泰志 様(一般社団法人狛江まちみらいラボ)

専門知識がなくても、直感的な操作で「分析の試行錯誤」ができる

LAPの第一印象や、操作性についてはいかがでしたか?

 直感的な操作性に驚きました。私は建築学科出身ということもあり、これまでGIS(地理情報システム)や統計ツールに触れる機会もありましたが、データの扱い方や集計条件の設定などに専門的な知識が必要でした。しかし、LAPは必要な範囲を指定すれば、すぐにヒートマップやグラフが生成されます。

専門家に依頼する前に、私自身で「どう切り出せば意味のある分析になるか」を試行錯誤できる。この「自分でデータと対話できる手軽さ」が、今回の分析の質を高めてくれたと感じています。

今回、早稲田大学さんに分析をお願いするにあたっても、まず私自身がLAPを触りながら、人流データで何が見られるのかを確認しました。そのうえで、どのような分析を依頼すべきかを具体化できたことは大きかったと思います。

 私たちの研究室でもGISツールを使って人流データを分析した経験はありますが、LAPは非常にわかりやすく、すぐに使い始めることができました。

最初は分析内容もまだ漠然としていたため、まずはLAP上で人流の大きな変化や傾向を確認しました。そのうえで、さらに詳しく見たい期間や対象を絞り込み、必要に応じて別のツールで深掘りするという使い方をしました。

その中で、LAPは特に最初の仮説を立てる段階でとても使いやすいと感じています。人流の全体像を見ながら「どこに着目すべきか」を探ることができるため、研究やレポート作成の入口としても活用しやすいツールだと思います。

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宮嶋 伯周 様(早稲田大学 大学院人間科学研究科 佐野友紀研究室)

2024年度と2025年度を比較し、平日・休日・属性別に駅前の変化を検証

具体的に、どのようなプロセスで分析を行ったのでしょうか?

倉見様: 

 狛江まちみらいラボ様から、「狛江駅前の2024年度と2025年度のデータを比較し、駅前の人流がどのように変化したのかを明らかにしたい」というご相談をいただいたのがスタートでした。

また、イベント開催によって「駅前の人流にどのような変化が起きたのか」を数値としてどう表れるのか、その成果を客観的なレポートとしてまとめたいという目的もありました。

そこで、まずは比較の条件を丁寧に整えることに注力しました。
2024年度と2025年度で同条件の期間を抽出し、そこから「平日と休日」、「性別」、「年代」、「時間帯」といった切り口でデータを整理し、駅前の滞在傾向を分析していきました。

同じ駅前空間であっても、平日の朝と休日の昼では、利用者の属性や滞在の仕方が異なります。LAPを使うことで、そうした違いをヒートマップやグラフで確認しながら、狛江駅周辺が時間やシチュエーションによってどのように使いわけられているのか、その具体的な「濃淡」を捉えることができました。

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倉見 栞奈 様(早稲田大学 大学院人間科学研究科 佐野友紀研究室)

 分析のアプローチとして、LAPで全体的な傾向を掴み、気になったポイントを深掘りしていくという流れを取りました。最初から明確な答えがあるわけではなかったので、まずはさまざまな条件でデータを見てみることが重要でした。

LAP上で期間や属性を切り替えながら「どの時間帯にどのような方が多いのか」「イベント時は通常時と比べてどのような動きの変化があるのか」を細かく検証していきました。こうした分析を進める中で、単に「人が増えた・減った」という結果を見るだけでなく、駅前空間の使われ方に深い意味があることにも気づかされました。

イベント効果を正しく見るために、平常日・天候・属性条件を丁寧にそろえる

人流データを分析する際に、注意したことや工夫したことはありますか?

倉見様: 

 イベントの効果を分析する際に大切なのは、比較対象となる「平常日」をどのように選ぶかです。

単にイベント開催日だけを切り出しても、それがイベントによる変化なのか、あるいは天候や曜日、はたまた他の催しによる影響なのかは判断できません。そこで、狛江まちみらいラボ様と過去のイベント実績を照らし合わせながら、似たような行事が行われていない日を抽出し、比較対象としての「平常日」を丁寧に決めていきました。

また、天候も人流に直結する大きな要因です。雨の日と晴れの日では駅前の滞在傾向が異なります。
そのため、気象庁のデータを参照し、可能な限り気象条件が近い日を抽出して比較するようにしました。

もうひとつ工夫した点は、子どもの人流をどのように捉えるかです。LAPの人流データはスマートフォンの位置情報をもとにしているため、子ども単独の人流を把握することは難しいため、子ども連れの動きを把握する参考指標として、保護者世代と考えられる「40代から50代の女性」の人流に着目しました。

データは数字として出力されるため客観的に見えますが、実は読み解く側の視点が問われます。曜日、天候、イベントの有無、そして属性条件。これらを一つひとつ丁寧に揃えることこで、より納得感のある分析につながると実感しました。

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2025年10月に開催した「狛江夜市」

データが示したのは「増えた人」だけではない。イベント時に変わる日常の人流

分析の結果、意外な発見はありましたか?

田坂様: 

 意外だったのは、イベントを開催した際に「普段は見られる人流が少なくなる」という現象が可視化されたことです。

イベントを開けば「普段は来ない人が増える」ことは想定していましたが、その反面普段その時間帯にいる人がいなくなる」という変化までは想像できていませんでした。

たとえば、普段の朝は散歩などで駅前を利用している層が、イベント開催時には少なくなる場合がある。つまり、新しい来訪者が増える一方で、日常の利用者の動きも変わるという“トレードオフ”が存在しているのです。これは、人流データを見なければ気づけなかった発見でした。

もちろん、イベント目的の動きが大きな通勤・通学の人流に埋もれてしまう難しさはありましたが、条件を整理して比較したことで、イベントが駅前の日常に与える影響の一端を数字で示すことができました。これは、今後のまちづくりにおいて大きな意味を持つデータになったと感じています。

倉見様: 

 スマートフォンのGPSの精度を考えると、ほこみちの対象エリアは範囲が限定的であるため、細かいエリアでどこまで変化を捉えられるかという懸念もありました。しかし、実際に分析してみると、数値として十分に変化が見られたことは驚きでした。狭い範囲であっても、条件を整理すればまちの変化を捉えられる可能性を感じました。

また、深夜3時など普段注目しない時間帯に意外な属性の人流が見られることもありました。こうした発見は、現地で見ていただけでは決して気づけないデータ分析ならではの視点です。

 私が印象的だったのは、時間帯による駅前の滞在している方の属性が大きく変わることです。

平日の午前中は高齢の方、夕方は働く世代といったように、同じ駅前という空間が、時間帯によってまったく異なる役割を担っていることが分かりました。狛江駅前は特定の世代だけの場所ではなく、時間帯ごとに多様な人々が利用している「共有空間」なのだと再認識したのです。

また、分析を深める中で、来店客の滞在目的が「1軒目利用」なのか「2軒目利用」なのかといった消費行動の傾向まで見えてくることもわかりました。こうした分析結果は、今後の店舗でのクーポン配布の最適化や、販促戦略の設計といった実務にも応用できると感じています。

平日とイベント開催時における人流比較レポート例

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人流データが見せてくれた「多世代が共存する駅前の日常」

 今回の分析によって見えてきたのは、イベントの効果だけではありませんでした。

平日の午前中は高齢の方が穏やかに過ごし、夕方には働く世代や子育て世代が駅前を行き交う。休日やイベント時には、普段とは異なる人の流れが生まれる。こうしたデータは、駅前という空間が単なる通過点ではなく、時間帯によって役割を変え、多世代の暮らしを支える「生活の場」であることを証明していました。

ウォーカブルなまちづくりにおいて、「歩きやすい道路を整備する」ことは重要です。
しかし、その場所が実際に誰に、どう使われているのかを理解することも、同じように大切です。

  • ベンチやテーブルを置くことで、誰が立ち止まるのか。
  • イベントを開催することで、どのような人が訪れるのか。
  • その一方で、普段利用している人の行動に変化はあるのか。

こうした問いに向き合い続けることで、まちづくりの施策はより解像度の高いものへと磨かれます。
今回の取り組みは、感覚的に語られがちな“にぎわい”を、人流データという客観的なエビデンスで確認できる状態にした点に大きな意義があります。これは、単なる成果報告の数字を得る作業ではなく、次のまちづくりをより前向きに描くための羅針盤を手に入れたということでもあります。

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狛江駅 駅前

継続分析で、駅前から商店街・河川敷まで、まち全体の変化を捉えていく

人流データの活用について、今後の方針をお聞かせください

田坂様: 

 人流データを導入したことで、施策の効果を客観的に測定できるようになりました。今後はこの視点をさらに広げ、駅前だけでなく、商店街や河川敷など、周辺エリアにも分析対象を広げてさまざまな施策の効果を検証していきたいと考えています。

たとえば、河川敷でのイベントが付近の商店街にどのような波及効果を生んでいるのか。点ではなく「まち全体」の面で捉えることで、狛江全体の回遊性を高める新たな可能性が見えてくるはずです。今後も継続的な分析を通じ、関係者と成果を共有しながら、より納得感のある施策を打ち出していきたいと思います。

宮嶋様: 

 今回行った分析は、次年度以降も継続して実施していきたいと考えています。

イベントごとの来訪傾向を蓄積していけば、「どのようなイベントが、どのエリアの人を呼び込めるのか」という成功パターンがより明確になるはずです。来訪者数だけでなく、その背景や移動の流れまで深掘りすることで、今後のイベント企画や駅前空間の設計に役立てるのではないかと考えています。

倉見様: 

 今回のデータに加えて、さらに1年分のデータが蓄積されれば、季節ごとの違いなど、より多角的な分析ができるようになると期待しています。

狛江まちみらいラボ様は、年間を通じてさまざまなイベントのスケジュールを管理されています。季節ごとの人流傾向がわかれば、たとえば「河川敷のイベントは冬より夏のほうが人が集まりやすい」といった住民のニーズに合ったイベントスケジュールの立案にもつながると思います。

データは一度分析して終わりではなく、継続的に見ていくことで価値が高まるものだと感じています。季節、曜日、時間帯、イベント内容など、分析の切り口を広げまちづくりへの活用の幅をさらに広げていければと考えています。

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おわりに:感覚とデータを組み合わせることで、まちづくりの次の一歩が見えてくる

まちづくりにおいて、現場で感じる空気感や、地域の方々の声は最も大切な原点です。

しかし、それを関係者に伝え、次の施策を前進させるためには、客観的な根拠が不可欠です。公共空間の活用やイベント施策において、「どれくらい人が増え、誰が利用し、周辺にどのような影響があったのか」を数字で示すことは、議論を建設的なものに変える力を持っています。

今回の狛江市、狛江まちみらいラボ、早稲田大学による取り組みは、人流データ活用プラットフォーム「Location AI Platform®(LAP)」を活用し、駅前の“にぎわい”を定量的に検証する試みを実施いただきました。

  • 「この場所は、誰に使われているのか」
  • 「イベントによって、どのような変化が生まれているのか」
  • 「次はどの場所に目を向けるべきなのか」

こうした問いに対する答えをデータが示してくれるとき、まちづくりは確かな一歩を踏み出します。

Location AIは、現場の実感とデータを組み合わせることで、より納得感のある意思決定を後押しし、まちの未来を支えるパートナーであり続けたいと考えています。

インタビュー協力者

田坂 泰志 様(一般社団法人狛江まちみらいラボ)
倉見 栞奈 様(早稲田大学 大学院人間科学研究科 佐野友紀研究室)
宮嶋 伯周 様(早稲田大学 大学院人間科学研究科 佐野友紀研究室)

 Location AI株式会社 マーケティングチーム
Location AI株式会社マーケティングチーム

Location AI株式会社は、位置情報ビッグデータとAIテクノロジーで、実世界の人流データ活用を推進するロケーションテック企業です。 独自のAI解析エンジン「Location Engine™」を基盤に、2018年(旧クロスロケーションズ創業)より人流データ事業を展開。データの分析・可視化からプロモーションの実施までを一気通貫で実現し、ビジネスの成長から社会課題の解決まで幅広く支援しています。 本ページは、民間企業や自治体、報道機関など、幅広い分野へのデータ分析支援を通じて蓄積した知見をもとに執筆・更新しています。

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