キリンビール株式会社 榎並憲一様
マーケティング本部 飲料サポート担当 フードビジネスサポートチーム
部長補佐 榎並 憲一 様
「この立地で本当に出店すべきか?」
「客数が伸び悩んでいるが、打ち手はあるのか?」
「営業時間やメニュー構成は最適なのか?」
飲食店営業の現場では、こうした問いに直面することが少なくありません。
これまで営業担当者は経験や勘をもとに提案してきましたが、市場環境の変化や競争の激化に伴い、“根拠ある提案”が求められるようになっています。
こうした営業現場の課題を背景に、キリンビール株式会社では業務用営業を支援するフードビジネスサポートチームが Location AI Platform®(LAP)を導入しました。人流データを活用し、新規出店の可否判断や商圏分析に加え、既存店舗の来店客層分析、営業時間最適化、メニュー戦略、販促施策の立案など、データに基づく店舗支援に活用されています。
今回は、LAP導入の背景や具体的な活用事例、そして営業現場にもたらした変化について、
マーケティング本部 榎並憲一様にお話を伺いました。
貴社が人流分析サービスを導入した背景を教えてください。
榎並様:
業務用営業の現場では、得意先である飲食店や酒店の経営者の方々から、「この立地で出店してよいか」「集客を強化するには何を見直すべきか」といったご相談をいただく機会が非常に多くあります。特に店舗展開を加速させようとしている成長フェーズの企業様からのご相談は年々増えています。
これまではGIS(地理情報システム)を活用し、商圏内の人口や世帯分布といった居住者データをもとに提案を行ってきました。しかし実際に飲食店を利用するのは近隣居住者だけではありません。オフィスワーカーや来街者、他エリアからの流入客など、さまざまな人が時間帯によって行き交います。
「実際にその場所に、どのような人が、どの時間帯に訪れているのか」。そこまで踏み込んだ分析を行わなければ、真に説得力のある提案はできない。そうした課題意識が高まり、従来の分析手法では不十分だという認識が社内で共有されるようになりました。
加えて、近年はビールメーカー間の競争も激化しており、単に商品を提案するだけでなく、得意先の売上拡大に直結する支援ができるかどうかが、メーカー選定の重要な要素になっています。そこで当社としても、営業提案の質を一段引き上げるために、データをもとに語れる営業体制への転換が必要だと考えました。
人流分析サービスの中でLAPに決めた理由をお聞かせください。
榎並様:
導入にあたっては、複数の人流分析サービスを比較検討し、実際にテスト分析を行いながら費用対効果や実用性を検証しました。
その中で特に決め手となったのが、データの母数の大きさとエリアカバーの広さです。都市部だけでなく、地方エリアの店舗でも十分なサンプル数で分析できる点は、全国で得意先を支援する当社にとって大きな強みでした。
また、来訪者の属性や時間帯別の動向などを直感的に可視化できる操作性も重要なポイントでした。営業現場で活用する以上、専門的な知識がなくても扱えることが不可欠です。その点で、実務に落とし込みやすいプラットフォームであると評価され、導入に至りました。

LAPの使い勝手について感想をお聞かせください。
榎並様:
私はもともとGISの専門知識があったわけではありませんので、導入当初は聞き慣れない用語も多く戸惑う部分もありました。ただ、実際に触っていくうちに操作方法はすぐに理解でき、マニュアルを読み込まなくても直感的に扱えるようになりました。
特に安心できるのは、操作を誤ってもデータが上書きされることがなく、何度でもやり直せる点です。そのため心理的なハードルが低く、ある意味“ゲーム感覚”でさまざまな分析を試すことができます。
使えば使うほど、「もっと深く見てみたい」「別の切り口で分析したらどうなるだろう」と探究心が刺激されます。必要な機能も一通り揃っており、営業現場で活用するうえで非常に実用性が高いと感じています。
LAPを活用して具体的にどのような提案を行っていますか?
榎並様:
たとえばお客様から「この立地で新規出店を考えているが、どうだろうか?」とご相談を受けた場合、LAPを活用することで、
- 以前その場所に出店していた店舗の来訪傾向
- 周辺の同業店舗の来店者数や時間帯別の動向
などを具体的なデータで提示することができます。
従来は営業担当者の経験や感覚に基づいた説明にとどまっていましたが、現在は人流データという客観的なエビデンスをもとに提案できるようになりました。これは非常に大きな変化です。
また、LAPは単なる検証ツールではなく、“仮説を生み出すツール”としても活用しています。
分析結果をもとに、「このエリアにも出店の可能性があるのではないか」と逆提案することも可能になりました。
実際に地方で展開している飲食チェーンに対して、来店客層をクラスター分析し、東京であればどのエリアが適合するかをご提案したところ、高い評価をいただいた事例もあります。私たちが目指しているのは、このような“守り”ではなく“攻め”の提案です。
さらに、既存店舗の支援にも活用しています。来店者の年齢層や滞在傾向を把握することで、
- 営業時間の見直し
- ターゲットに適したアルコールメニューの設計
- キャンペーン施策の最適化
といった具体的な改善提案につなげています。
たとえば、来店客の中心が中高年層である店舗に対して若年層向けメニューを拡充しても効果は限定的です。人流データから客層を可視化することで、ビールを軸にするべきか、サワーを強化すべきかといった判断材料を提示できます。
また、来店客が1軒目利用なのか2軒目利用なのかといった傾向も把握できるため、クーポン配布の設計や販促のタイミング検討にも役立てています。
LAPを導入したことによる具体的な成果はありますか?
榎並様:
ある飲食チェーンの新規出店案件で、当社がコンペに参加した際のことです。LAPの分析結果を活用し、新規出店時に見込まれる来店者数や客層の特性を具体的なデータとともに提示しました。
そのプレゼンに対して先方の社長から高い評価をいただき、最終的に当社との契約が決定しました。感覚ではなく、具体的な数値をもって示せたことが、意思決定の後押しになったと感じています。
こうした明確な成果はまだ限定的ではありますが、営業現場からは「お客様との対話の質が変わった」「提案への信頼度が高まった」といった声が数多く上がっています。
人流データは単なる分析資料ではなく、営業活動そのものの価値を高めるコミュニケーションツールになっていると実感しています。

今後はLAPの活用をどのように発展させていきたいとお考えですか?
榎並様:
現時点では、LAPの機能や活用方法について7~8割ほどは理解できていると感じていますが、重要なのはその先だと思っています。単にデータを読み取るだけでなく、そこからいかに価値ある仮説を生み出し、提案に昇華させていくかが今後の課題です。
そのためには、さまざまな分析事例や成功パターンを蓄積し、自分自身の引き出しを増やしていくことが必要だと考えています。
また、今後は生成AIも積極的に活用しながら、分析結果からの仮説構築やプレゼン資料の作成をより効率化していきたいと思っています。人流データと生成AIを組み合わせることで、よりスピーディーかつ高度な営業提案が可能になるはずです。
LAPを単なるデータ分析ツールにとどめるのではなく、営業活動の高度化を支える基盤として、より実践的に活用していきたいと考えています。
ビール業界の現状と、その中で貴社は今後どのような役割を果たしていこうとお考えなのか、展望をお聞かせください。
榎並様:
日本の外食市場は、人口減少やライフスタイルの多様化などを背景に、厳しい環境が続いています。飲食店経営においても、従来の経験や勘だけでは判断が難しい局面が増えていると感じています。
そのような中で、私たちビールメーカーが選ばれる存在であり続けるためには、単なる商品供給者ではなく、経営パートナーとして価値を提供できるかどうかが重要だと考えています。
私たちにとっての“価値ある提案”とは、お客様の店舗が繁盛し、長く愛され続けるための支援を行うことです。そのためには、客観的なエビデンスに基づいた意思決定支援が欠かせません。
人流データは、そのための強力な基盤になると感じています。
経験や感覚を否定するのではなく、それらをデータで裏付け、より確度の高い判断へと導くこと。
それがこれからの営業の役割であり、当社が目指す姿だと思っています。
今後もLAPを活用しながら、お客様とともに成長できる関係を築いていきたいと考えています。

